1500個の分子と1475個の分子を区別することができるか?

本ガイドの対象者 :

顕微鏡カメラを使用している、またはこれから使用したいと考えている研究者の方

本ガイドの内容 :

カメラのスペックと実験との関連性について説明します。

セクション :

仕様の表記について :

浜松ホトニクスの表記 他メーカーの表記
飽和電荷量 Pixel well depth
ダイナミックレンジ Dynamic range
デジタル出力 A/D conversion factor, Digitization, Digital output format

多くの科学的な質問と同様に、「1500個の分子と1475個の分子を区別できるだろうか」という一見単純な質問に対する答えは、一筋縄には回答できせん。蛍光体の光子放出特性、分子あたりの蛍光体の数、そしてカメラに依存します。この問題の核心は、特定の実験に対してカメラがその信号を検出できるかどうかを理解することにあります。そして、検出可能な信号変化を理解するためには、飽和電荷量を見る必要があります。

 

検出可能な信号変化(Detectable Signal Change、以降DSC)とは、変化に対する感度を表します。顕微鏡カメラの場合、DSCは信号の変化の測定精度を表し、獲得した信号の総量が制限要因になります。カメラが検出できる最大信号量を示す飽和電荷量が最も重要であり、カメラのノイズはほとんど重要ではありません。

 

1500分子の検出と1475分子の検出という問題に戻ると、"2%の差を検出できるか "という問題になります。DSCと%DSCについて以下の式を使用します。

 

\[ DSC=\sqrt{\mathstrut S} \]
\[ \%\ DSC=\sqrt{S}/S = 1/\sqrt{S} \]

これをSについて解くと、

\[ 0.02=1/\sqrt{S} \]
\[ S=2500 \]

つまり、1500個、1475個の分子を区別するためには、飽和する前に2500個の電子を溜めることのできる十分な飽和電荷量がカメラに必要です。

 

もちろん、試料は、露光時間とシステムの量子効率によって割り当てられた時間内に、検出器内でそれだけの電子を生成するのに十分な光子を生成する必要があります。

 

しかし、この2%の差を検出しながら、画像の他の特徴も可視化(ノイズ以上)し、飽和させないようにしたいとしたらどうでしょうか。例えば、神経細胞を撮影する場合、細胞体は明るく、樹状突起はかなり暗いというような場合です。ここで、カメラのダイナミックレンジ  (DR) を考慮する必要があります。

 

カメラのDRは、飽和電荷量の関数でもありますが、ここではカメラのノイズを考慮することが重要です。DRはサンプルを考慮せず、あくまでカメラの特性であることに注意してください。

 

DRはカメラが検出可能な最大信号 (S) をカメラノイズ (N) で割ったものとして定義されます。

 

\[ ダイナミックレンジ=S/N \]

比率ではなくデシベルで表記されることもあります。

 

\[ ダイナミックレンジ(Db)=20\cdot log(S/N) \]

カメラが検出可能な最大信号は、飽和電荷量によって決まります。飽和電荷量が30,000電子であれば、その画素の1画像で検出できる光子の最大数は30,000です。もちろん、すべての光子が電子に変換されるわけではないので、これは実際の光子の数のほんの一部しか反映しておらず、その特定の波長におけるカメラの量子効率 (QE) で表されます。

 

そしてノイズは、読み出しノイズ、暗電流ノイズ、光ショットノイズの組み合わせです (詳しくはこちら) 。一般的に、飽和電荷量と読み出しノイズを使用してダイナミックレンジを計算することができます。ほとんどの生物学的実験では、暗電流ノイズは無視でき、5分以上の露光時にのみダイナミックレンジに影響を与えます。また信号量が多い場合の光ショットノイズも無視できます。

 

\[ トータルノイズ=\sqrt{\mathstrut 読み出しノイズ^2 + 暗電流ノイズ^2 +ショットノイズ^2} \]

ORCA -Flash4.0を例にとると、飽和電荷量30,000e-をスロースキャン時の読み出しノイズ0.9 electronで割ると、ダイナミックレンジは33000:1、つまり90.4Dbとなります。

 

尚、EM-CCDカメラの場合は、EMゲインを使用するとダイナミックレンジが狭くなることがあります。EMゲインレジスタの飽和電荷量が、個々の画素の増幅された飽和電荷量を超えると、ダイナミックレンジは減少します。その結果、高いEMゲインと広いダイナミックレンジはトレードオフの関係になります。

ビット深度について

ビット深度とダイナミックレンジは同義ではないことを認識することが重要です。飽和電荷量をビット深度で割ると、各グレーレベルの精度の限界となり、グレーレベル (デジタイザビット) あたり何個の電子が必要かという値となる。

 

定量的な画像解析や特徴の分類には、高いビット深度が必要不可欠です。

まとめ :

  • ダイナミックレンジは、カメラがいくつの異なる強度レベルを区別できるかを示すものですが、実際に検出可能な信号変化は、サンプルの強度とカメラに依存します。
  • メーカーがダイナミックレンジを記載していない場合は、飽和電荷量と読み出しノイズから計算することができます。
  • EM-CCDではEMゲインを上げると、ダイナミックレンジは減少します。

 

次のセクション:私のサンプルは信号が非常に少ないのですが、このカメラは私のサンプルを正確に撮像することができますか?

製品の購入やさらに詳しい情報についてはお問い合わせください。

  • 資料請求
  • 価格
  • 納期
  • カスタマイズ
  • デモ依頼
  • サポート
  • その他

お問い合わせ

お問い合わせ内容によっては、回答にお時間をいただく場合やお答えできない場合がございますので、あらかじめご了承ください。