2025年1月23日公開
公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI:Japan Synchrotron Radiation Research Institute)様は、大型放射光施設「SPring-8」、X線自由電子レーザー施設「SACLA」、3GeV 高輝度放射光施設「NanoTerasu」の運転・維持管理や利用支援、それらを行うための技術開発を行っています。その中で、放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 顕微・動的画像計測チーム 様は、放射光を使ったX線イメージングシステムの開発やX線イメージングを行いたい研究者への利用支援を担当しており、ここで使用されるX線イメージングシステム用の検出器として弊社のORCA®-Quest qCMOS®カメラが使用されています。
同グループの主幹研究員である星野 真人 様に顕微・動的画像計測チームの業務内容の詳細やORCA-Questの導入によって得られた成果、今後の展望などについてインタビューを行いました。
-顕微・動的画像計測チームの業務内容について教えてください。
当チームでは、主にX線を用いたイメージングシステムの開発や、そのシステムを利用したい研究者への利用支援などを行っています。観察対象は生体試料や材料系の試料、遺跡からの発掘物や化石など多岐にわたりますが、いずれも不透明な対象物を破壊せずに内部を観察したいという要望に対応しています。私たちの施設では、いわゆるレントゲン写真のような2次元画像だけでなく、X線CTを用いた3次元画像も取得することが可能です。
当チームの強みは、高い分解能で対象物の内部観察ができるという点です。一般的なX線源はビームの発散角が大きいため、対象物に照射されるまでにX線が広がってしまい、単位面積当たりの光子数が少なくなってしまいます。単位面積当たりの光子数が少なくなるとS/Nが低下するため、対象物内部の細かい構造を高いS/Nで撮影することが困難になります。
SPring-8で生成されるX線は強力かつ指向性が高いので、ビームが発散しにくく細いビームを照射できるという強みがあります。これにより単位面積当たりの光子数が多くなるため、高いS/Nを維持したまま高分解能で観察をすることが可能になります。
星野 真人 様
-X線を用いたイメージングにはどのような課題があるのでしょうか。
X線イメージングを行う上で重要な要素として「視野サイズ」「空間分解能」「撮影速度」があります。当チームではさまざまな研究者の支援をしている関係で、大きな対象物から小さな対象物、内部構造が非常に細かい対象物、動きのある対象物など、取り扱う対象物も多岐にわたります。対象物にあわせて3つの要素も最適化する必要があるのですが、それを行う上でそれぞれ課題があります。
大きな対象物を観察する際は広い視野が必要になりますが、カメラの視野サイズを超える対象物を観察する場合は1枚で撮像できないため、視野を変えながら複数枚の画像を取得し、それをつなぎ合わせる必要があります。撮影枚数が多くなればなるほど撮影時間が長くなりますし、撮影後の画像処理の手間が増えます。
内部構造を高い分解能で観察するためには、検出器の画素サイズがある程度小さいことも重要なポイントです。ただ、画素サイズが小さくなると1画素あたりの光量が減少し、S/Nが低下してしまいます。
撮影速度は、画像の取得時間や動きのある対象物の観察に大きく影響します。例えば、3次元画像を取得するX線CTでは対象物を回転しさまざまな角度から画像を取得するのですが、多い時には数千枚の画像を取得することもあるため、1枚あたりの画像の取得時間が長いと、すべての画像の取得に非常に長い時間がかかってしまいます。また動きのある対象物を撮影する際、検出器のフレームレートが遅いと撮影したい瞬間を撮り逃してしまったり、露光時間が長いとブレた画像になってしまいます
取り扱う対象物が多い分、考慮しなければならない要素が多く、課題も多いと考えています。
-ORCA-Questの導入に至った理由や決め手を教えてください。
一点目は、従来のカメラよりもセンサが多画素化したことにより、高精細な撮影ができるようになった点です。4.6 μm × 4.6 μmという小さな画素サイズを維持しながら、4096(H) × 2304(V)という多画素化により、高い分解能と広い視野を同時に実現することができています。
2点目は、撮影スピードです。カメラのフレームレートをあげると1フレーム当たりの光子数が少なくなるため、S/Nが悪くなってしまうという課題がありましたが、ORCA-Questは120フレーム/秒とフレームレートが速いだけでなく、量子効率が高いことや読み出しノイズが非常に低く抑えられていることで、高いS/Nを維持したまま高速に撮影することができます。これによりX線CT画像の取得時間が短縮できたり、生体試料のライブイメージングができるというメリットがあります。最近の実験では、小動物の肺の動きなどを高速にライブイメージングするということを行ったりしました。
また、ORCA-Questを設置しているビームラインBL20B2では、偏向電磁石光源を使用しています。偏向電磁石光源からは非常に幅広い波長(エネルギー)領域のX線が出てくるため、分光器により任意のエネルギーのX線を切り出して使うことができます。一方で、鉛直方向よりも水平方向にビームが広がるという特性がありますので、ビームの断面形状は横長となります。このため、偏光電磁石光源と組み合わせるカメラとしてはセンサの形が横長なもののほうが相性が良く、ORCA-Questのセンサの形は奇遇にもこのビームラインに適していました。
X線イメージングシステム
検出器:高解像度X線イメージングシステム M11427、ORCA-Quest qCMOSカメラ C15550-20UP
1. Φ8 mmのGFRPロッドの透過像(横方向4096 pixels, 2.68 μm/pixels)
2. 高精細X線マイクロCTによって得られた透過像の断層像(画像1の赤線部)
3. 画像2の黄色枠部の拡大像
直径15 μm程度のガラスファイバーが密集している様子を鮮明に観察することができています。
4. 3次元表示したガラスファイバーの配向
高精細画像によりファイバーの1本1本の配向を確認することができます。
3次元表示にはDrishti*を使用
カメラ:ORCA-Quest qCMOSカメラ C15550-20UP
光学系:X線イメージングシステム M11427
ビームライン:SPring-8 BL20B2
投影数:7200枚/180度
露光時間:20 ms/投影
トータル計測時間:3 min
画像提供:高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 イメージンググループ 星野 真人 様
カメラ:ORCA-Quest qCMOSカメラ C15550-20UP
光学系:X線イメージングシステム M11427
ビームライン:SPring-8 BL20B2
露光時間:15 ms
トータル計測時間:6.5 min
画像提供:高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 イメージンググループ 星野 真人 様
-今後の装置開発における展望を教えてください。
現在は主にマルチスケール計測を行うためのX線イメージングシステム開発に力を入れています。マルチスケール計測とは、その名の通り複数の空間スケールで撮影を行うことですが、当施設を利用する研究者の中には、遺跡からの発掘物や化石などの大きな対象物の内部をできるだけ細かく見たいという方もいます。BL20B2で利用できるビームは最大で150 mm(H)× 20 mm(V)程度あり、より大きな対象物の観察ができるポテンシャルがあります。X線画像を撮影する際は、シンチレータによりX線を可視光に変換してからレンズによりセンサ上に結像するという方法を用いていますが、視野サイズと空間分解能を天秤にかけると、一度の撮影ではどちらかを優先せざるを得ません。マルチスケール計測では、大きな視野サイズを持ったカメラで最初に対象物全体を撮影し、その中でより詳細に観察したい部分をクローズアップしてORCA-Questで観察するという方法を用ることにより、より効率的に観察を行うことができます。使用するカメラが変わると、対象物を乗せるステージなどの周辺機器との同期や、ビームサイズといったその他の設定なども細かく調整する必要があるため、さまざまな条件で常に最適なイメージングができるよう、今後も検証を重ねていきます。
もちろん、現在の画素サイズや感度を維持しながら、今よりも画素数が多くセンササイズが大きい、すなわちより大きな視野サイズで観察が可能なカメラが発売されればそれを検出器として用いるのが最適ではあるので、今後の浜松ホトニクスのカメラ開発にも期待しています。
公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI:Japan Synchrotron Radiation Research Institute)様は大型放射光施設SPring-8の運転・維持管理・利用支援とX線自由電子レーザー施設SACLA及び3GeV 高輝度放射光施設NanoTerasuの利用支援などを行っています。
これらは国内外に広く開かれた共用実験施設であり、その利用を円滑かつ高いレベルに維持するため、高い専門性を持つスタッフが多数集い、世界最先端の放射光施設の運営を行っています。
星野 真人
公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI) 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 顕微・動的画像計測チーム 主幹研究員
2008年3月 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 博士課程(電子・物理工学専攻)修了 (工学博士)
2008年4月 高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 協力研究員
2009年4月 高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 研究員
2018年4月 高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員
2021年4月 現職
ORCA-Quest 2は、ORCA-Questの後継機として極めて低ノイズなスキャンモードにおける読み出し速度の高速化や紫外領域での感度向上を実現。更なる進化を遂げた新たなqCMOSカメラです。
X線ビームを蛍光体で可視化するイメージングユニットとデジタルCMOSカメラなどを組み合わせた撮像システムです。独自の間接型X線撮影機構を採用し、様々なタイプのカメラを組み合わせてリアルタイムX線撮影が可能です。
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