ORCA-Questを用いたオーロラの観測

2024年10月11日公開

電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻 情報通信工学プログラム 細川研究室 様は、高感度カメラを用いたオーロラのイメージングを行っています。オーロラの観察には、形態や動態を観察するためのフレームレート、暗いオーロラを検出するための感度、取得した画像の解析をスムーズに行うための低ノイズ性、広視野での撮影を行うためのセンササイズなどが求められており、これらの課題を解決するカメラとしてORCA-Questを導入いただいております。

同研究室の細川 敬祐 様にORCA-Questを導入した経緯やその使用感、今後の研究の展望についてインタビューを行いました。

 

研究について

-研究内容について教えてください。

 

当研究室では、数秒から数十秒の周期で明滅する脈動オーロラを観測するために、北欧やアラスカの複数地点において高感度カメラを用いたオーロライメージングを行っています。2015年に開始した脈動オーロラ研究プロジェクト(Pulsating Aurora Project)では、浜松ホトニクス製のEM-CCDカメラ(ImagEM)を使い高い時間分解能のイメージングを行っています。このカメラを用いた地上からのオーロライメージングと、欧州非干渉散乱(EISCAT)レーダー、2016年12月に打ち上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」や、2022年に打ち上げが行われた脈動オーロラロケット実験による観測を組み合わせて、脈動オーロラ明滅の起源を明らかにする研究を行っています。

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Skibotn 観測所(ノルウェー王国)

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細川 敬祐 様

オーロライメージングにおける課題

-オーロラのイメージングにはどのような課題があるのでしょうか。

 

オーロラのイメージングにおいては主に以下のような課題があります。

  • 暗いオーロラを検出するための感度
  • オーロラの形態を詳細に観測するための空間分解能
  • カメラのノイズによるデータ解析への影響

感度に関しては、以前まではEM-CCDカメラ(ImagEM)を使用していました。EM-CCDカメラは入射した電子を増倍することで非常に高感度な撮像ができるため、高い時間分解能を必要とするオーロラの観測において最適でした。ただし、EM-CCDカメラはピクセルサイズが大きいことに加え画素数も少ないため、広い範囲を撮影しようとすると空間分解能が低くなってしまい、オーロラの形態を詳細に観測することはできていませんでした。

先に述べたように、EM-CCDカメラは空間分解能の面が課題であったため、感度を維持しながらより高い空間分解能でイメージングをしたいと思っていると、浜松ホトニクスからORCA-Questという高感度且つ高解像度なカメラが登場したため、「空間分解能の面を改善できるかも」と思ったことを覚えています。

また、カメラのノイズによるデータ解析への影響に関しては、撮像した画像にオーロラからの信号以外が混じると、その後のデータ解析時に影響を受けてしまうため、できるだけノイズの少ないカメラを使う必要があります。EM-CCDカメラでは、信号を増倍することで読み出しノイズが相対的に小さくなる一方、信号を増倍した際に増倍ゆらぎと呼ばれる大きなノイズが加わってしまい、取得した画像のバックグラウンドがゆらぐため、解析がしにくいという課題がありました。

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Skibotn観測所(ノルウェー王国)のドーム内に設置されたORCA-Quest

ORCA-Quest 導入の決め手

-ORCA-Questの導入に至った理由や決め手を教えてください。

 

ORCA-Questを導入した一番の決め手は、解像度が非常に高いことです。EM-CCDカメラの画素数は512 × 512であるのに対し、ORCA-Questは4096 × 2304と画素数が非常に多いことに加え、1画素のサイズもEM-CCDカメラが16 μm × 16 μmであるのに対し、ORCA-Questは4.6 μm × 4.6 μmと小さくなっているため、EM-CCDカメラよりもはるかに高い空間分解能でオーロラを観測できるようになりました。撮像範囲が変わったこともありますが、EM-CCDカメラとORCA-Questで取得した画像を比較すると約10倍程度空間分解能を向上させることができています。

 

また、感度の面においては画素サイズが大きく、電子増倍機能があるEM-CCDカメラには少し劣るものの、読み出しノイズが非常に小さくなったことで、かなり暗い現象でも検出ができるようになりました。EM-CCDカメラは電子増倍をして信号を稼げる半面、増倍によるゆらぎがノイズとなり解析に影響を及ぼしていましたが、ORCA-Questは電子増倍を行っていないため増倍ゆらぎの影響がなく、読み出しノイズや暗電流ノイズも非常に低く抑えられているため、ノイズの影響を受けずにデータ解析ができるという点も魅力でした。

観測例

カーテン状のオーロラの観測

データ提供:電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻 情報通信工学プログラム 細川研究室 細川 敬祐 様

スキャンモード:Ultra quiet scan

フレームレート:20フレーム/秒(2048 × 1152)

ビニング:2 × 2

波を打つオーロラの観測

データ提供:電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻 情報通信工学プログラム 細川研究室 細川 敬祐 様

スキャンモード:Ultra quiet scan

フレームレート:20フレーム/秒(1024 × 576)

ビニング:4 × 4

観測データの管理

-オーロラ観測のために常にカメラを稼働させているのでしょうか。また、ORCA-Questで取得した撮影データはどのように管理されているのでしょうか。

 

オーロラはいつ出現するのかが予想できないため、基本的にカメラは毎夜撮影をしています。そのため、画像データを保存しておく大容量のストレージが必要になりますが、ストレージ容量にも限界がありますし、観測したデータを観測地から日本にインターネット経由で送る必要もあるため、できるだけオーロラが撮影されていない不要なデータは削減したいという希望があります。

そこで現在考えているのは、AIを使った自動判別です。夜間撮影した画像を昼間のうちにAIを使って自動判別し、オーロラが撮影できている部分のみを残し、不要なデータを削除するプログラムを開発中です。すでに自動判定を行うためのAI(Tromsø-AI)の開発は進んでいて、近いうちに実際の観測現場で試してみたいと考えています。これによって不要なデータを保存しなくて済むので、ストレージ容量の節約につながります。

 

また、AIを用いた観測のさらなる発展として、オーロラの出現だけでなく、オーロラの種類や明るさなどの詳細な情報をリアルタイムに自動で判定して、カメラのパラメータを最適化し撮影を行うといったこともやりたいと思っています。例えば動きの速いオーロラが出ているときはカメラの露光時間を短くして高い時間分解能での撮影を行い、非常に暗いオーロラが出ているときはカメラの露光時間を長くしたりビニングを使ったりして感度を稼ぎながら撮影するといったことができればいいなと思っています。

今後の研究展望

-今後の研究の展望を教えてください。

 

今後の研究展望としては主に以下のようなことを考えています。

 

  1. 100 km以下の空間スケールを持つメソスケールオーロラが果たしている役割の解明
  2. EISCAT_3D、人工衛星「あらせ」、ORCA-Quest等の地上観測データを用いた多次元的なデータ解析
  3. 複数のORCA-Questを用いた、多点光学観測網の構築

 

1に関しては、従来のカメラでは空間分解能が足りなかったことにより、微細な構造を持つメソスケールオーロラのメカニズムの解明ができていませんでした。今回ORCA-Questを導入したことにより空間分解能が向上したことに加え、国際共同で整備中のEISCAT_3Dレーダーを組み合わせて観測することで、メソスケールオーロラのメカニズム解明を加速させたいと考えています。

また、2に関しては、前述のORCA-QuestとEISCAT_3Dに加え、人工衛星「あらせ」のデータも組み合わせることで地上側、宇宙側の両面からオーロラのデータを取得し、多次元的にオーロラのメカニズムを解明することができると考えています。

ただし、2を行うためには、以下のような条件がすべてそろう必要があります。

  • カメラ、レーダーの観測範囲上を「あらせ」が通過すること
  • 「あらせ」が通過するタイミングでオーロラが出ていること
  • オーロラが出ているタイミングで天気が良いこと(雲で覆われていないこと)

 

オーロラの出現タイミングと天気は変えられないため、「あらせ」が通過する軌道の下をできるだけ広い範囲でカバーできるように、3の複数台のORCA-Questを用いた多点光学観測網の構築を進めています。3つのカメラを別々の地点に配置し、観測したデータをパッチワークのように結合することで、広い範囲を観測することができます。すでにカメラは購入しているので、現在はカメラの設置を行うこととEISCAT_3Dの運用開始を待っているという状況です。

EISCAT_3Dレーダー

ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)イメージ図

ご提供:(C)ERGサイエンスチーム

ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)の詳細はこちら

研究者プロフィール

細川 敬祐
電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻 情報通信工学プログラム 細川研究室 教授

2003年3月   京都大学大学院 理学研究科 博士課程(地球惑星科学専攻)修了(理学博士)
2003年4月   電気通信大学 電気通信学部 情報通信工学科 助手
2007年4月   電気通信大学 電気通信学部 情報通信工学科 助教
2012年6月   電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報・通信工学専攻 准教授
2019年4月   電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻 教授
2024年4月   電気通信大学 宇宙・電磁環境研究センター長

この事例で使用された製品

世界で初めてqCMOSイメージセンサを搭載したカメラです。量子技術や天文、ライフサイエンス分野での新たな用途の開拓が期待されます。

※現在は後継機種のC15550-22UP ORCA-Quest 2 qCMOSカメラを販売しています。

その他のお客様導入事例

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