原子量子コンピュータシステムに向けたORCA®-Questを用いた原子アレイイメージング

量子コンピュータ分野の最大の目標は、大規模な誤り耐性型汎用量子コンピュータを作ることにあります。量子超越、量子コンピュータが古典コンピュータより優れた計算能力を示す、という点ではGoogleが53個の超伝導量子ビットで達成していますが、ある特定の問題に対してのソリューションであり、汎用性がないという問題があります。大規模な汎用型の量子コンピュータに到達するために、超伝導量子ビットやイオントラップなどいくつかの方式が考えられていますが、いまだどれが本命かは決まっていません。有力な量子ビットの一つである、中性原子を用いた量子コンピュータでは科学計測用カメラが一般的に用いられており、ORCA-Questを実際に使用いただいている大阪大学の山本俊教授、小林俊輝助教にインタビューを行いました。

 

 

原子量子コンピュータとORCA-Questの用途について

中性原子の量子コンピュータでは、中性原子をレーザによる光ピンセットで真空中にトラップし、格子状に整列させます。科学計測用カメラの用途としては、その格子状に光トラップした原子1個1個からの蛍光を見ることであり、原子のトラップの様子や、量子状態を観測することに使用されます。原子からの蛍光がないときに、カメラノイズにより偽陽性、原子から蛍光が発生していると誤検出されることを無くすため、ノイズが少なく量子効率が高いということが科学計測用カメラへの要求になります。本研究は、本質的には単一光子が放出されるような光源を用いているため、ORCA-Questのような、1つ1つの光子数を数えながら撮影できるカメラが非常に理想的であると考えています。

もう一つの要求性能として、量子ビットの誤り訂正を行うためには、なるべく早く量子ビットの状態を読み出し、その状態に応じてすぐにフィードバックをかける必要があります。その点でも、従来のCCDカメラよりもORCA-QuestといったCMOSカメラのほうがデータの読み出し速度という点で優れていると思います。

 

今までの原子量子コンピュータの論文を見ていると、EM-CCDを使っている方が多いですが、最近は性能向上によりsCMOSを使っている方も増えてきていると感じています。EM-CCDとsCMOSの技術がかなり向上しており、量子効率やノイズ性能もともに良くなってきている中で、今回ORCA-Questを選定する際の決め手となったのはPhoton number resolving(PNR)モードでした。EM-CCDではセンサ技術上実現することができない性能であり、PNRモードを有効活用できる方法を見つけることができたら面白いだろうなというqCMOS技術への期待の部分も大きく、ORCA-Questを採用しました。

ORCA-Questによる撮像例

実験条件

使用原子:Rb(蛍光波長780 nm)
原子間隔:13 μm
スキャンモード:Ultraquiet scan mode
ビニング:2 × 2
露光時間:20 ms
単一原子のローディング確率:およそ50 %

シングルショット

フレーム平均 (200 frames)

右下の原子サイトの輝度ヒストグラム(4 × 4 pixelのROI内の輝度和、200 frames )

大阪大学ロゴ

今後の研究の展望について

先に述べたように、大規模な誤り耐性型汎用量子コンピュータを作ることが量子コンピュータ分野の最大の目標になります。誤り耐性を備えた汎用量子コンピュータというのは非常に大規模なものになり、アルゴリズムやプロトコルによりますが、10の6乗個くらいの原子が必要となると考えられています。その目標に到達するためには1つの物理系だけでは不足であると考えられており、2022年にノーベル物理学賞も受賞した「量子もつれ」を利用した量子状態の転送(量子テレポーテーション)を使うことで複数の物理系を繋ぐネットワーク型量子コンピュータが推進されています。現状は、1つの物理系だけでも誤り耐性を備えた汎用量子コンピュータに足りるサイズのものは出来ていないため、ローカルな原子量子コンピュータの部分を一生懸命作っている段階にあります。

ORCA-Questの画素数(4096 (H) × 2304 (V))であれば、10の4乗個の原子くらいは一つのカメラで撮れるようになると考えています。浜松ホトニクスさんが提示したORCA-QuestとEM-CCDの感度シミュレーション結果を比べた際に、どちらも良さそうだという感触は得ましたが、最後の決め手となったのはPhoton number resolvingモードといった、qCMOS技術の将来性への期待でした。

研究者プロフィール

山本俊
大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授/量子情報・量子生命研究センター(QIQB) 副センター長

2003年 総合研究大学院大学先導科学研究科光科学専攻修了 博士(理学)
2003年4月 総合研究大学院大学 JST-CREST研究員
2004年4月 大阪大学 大学院基礎工学研究科 特任助手
2007年4月 大阪大学 大学院基礎工学研究科 助教
2011年4月 大阪大学 大学院基礎工学研究科 准教授
2018年10月より 現職
2020年より内閣府・JST ムーンショット型研究開発制度 ムーンショット目標 6「ネットワーク型量子コンピュータによる量子サイバースペース」プロジェクトマネージャー
受賞:文部科学大臣表彰若手科学者賞(2014年)など

小林俊輝
大阪大学 量子情報・量子生命研究センター(QIQB) 助教。博士(理学)

2017年 大阪大学 大学院基礎工学研究科 博士後期課程修了
2017年4月 日本電気株式会社セキュリティ研究所 研究員
2019年4月 大阪大学 先導的学際研究機構 量子情報・量子生命研究センター  特任助教
2022年4月 現職

この事例で使用された製品

世界で初めてqCMOSイメージセンサを搭載したカメラです。量子技術や天文、ライフサイエンス分野での新たな用途の開拓が期待されます。

※現在は後継機種のORCA-Quest 2 qCMOSカメラ C15550-22UPを販売しています。

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