ORCA®-Quest 2を用いたX線イメージング技術の開発と物質の構造解析

2025年11月12日公開

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センターでは、次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」を活用した最先端イメージング技術の開発を行っています。同センター内の「時空間イメージングスマートラボ」に設置されたX線イメージングシステムには、検出器として当社製の ORCA-Quest 2 qCMOS®カメラ が採用されています。

同センター「時空間イメージングスマートラボ」にご所属の矢代航 様は当社のORCA-Quest 2 qCMOSカメラをNanoTerasuのビームラインに設置し、さまざまな実験を行っています。同ラボの矢代 様に研究内容の詳細やORCA-Quest 2の導入によって得られた成果、今後の展望などについてインタビューを行いました。

 

研究内容について

-研究内容について教えてください。

 

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 時空間イメージングスマートラボでは、「4D世界のフロンティアを切り拓く」というテーマで最先端の放射光技術に関する研究を行っています。最近注力している研究は、ミリ秒時間分解能を超える4DX線CTの開発、X線エラストグラフィの開発、X線イメージングの構造解析の融合技術の開発などです。これらにおいてはいかに高精細な画像を取得するか、ということが常に課題になっています。

 

高精細な画像の取得は、まさに「飽くなき挑戦」です。高精細なイメージングを実現するためには、イメージング技術を下支えする技術の開発も必要です。わたくしたちはイメージングを行うことだけでなく、そのための光学素子、システムなど、イメージングのためのベース技術の研究開発も同時に進めています。

放射光イメージングにおける課題

-放射光イメージングの研究を進めるうえでどのような課題がありますか?

高速なX線イメージングにおいては撮像スピードをもっと速く、一方で高速性が必要ない場合には高精細に、といったようにいずれの開発においてもそれぞれに課題はあります。その中で浜松ホトニクスのカメラを使っている高精細なX線イメージングに焦点を当ててお話ししますと、カメラを使う場合の課題は、空間分解能を高めると視野が狭まるところだと思っています。空間分解能が高ければ細かい構造物の識別が可能ですが、その分視野が狭くなり、対象物のサイズを小さくする必要があります。またその逆もあります。サイズの大きい対象物でも高分解能で撮像できれば、観察対象は自然と広がっていろいろな学術・産業応用研究の基盤になりますが、これらはトレードオフになる関係の性能ですので、イメージングする立場からすると課題といえます。

 

ただイメージングの品質に影響を与えるのはカメラに限らず、光源、光学系などもありますので、総合的に見て課題をとらえていく必要はあると思っています。

ORCA-Quest 2を導入した決め手

-ORCA-Quest 2の導入に至った理由や決め手を教えてください。

 

高精細なX線イメージングを行う必要が出てきた際、研究室で持っているカメラは比較的高速撮像に最適化したものが多かったので、長時間撮像ができ高分解能・高感度な性能を有するカメラを探していました。御社とは元々光学系などでお付き合いがあったので御社に相談をもちかけたところ、提案いただいたのがORCA-Quest 2でした。

ORCA-Quest 2 導入による成果と改善点

-実際にORCA-Quest 2を使用したことによる成果、導入して良かったと思えることがありましたら教えてください。

 

画素数、視野の広さ、4Kの高解像度が魅力的です。画素数が小さくなるとそこに入ってくる光子数が少なくなるので、画像が暗く、 ORCA-Quest 2はそれを補う分解能やS/Nの良さを有しています。実際に使ってみるとカメラの感度が高すぎて、光源との兼ね合いでカメラの感度を調整する必要があると感じたくらいです。

 

X線の高精細イメージングは分解能の高いカメラを使えば可能になるわけではありません。光源からどれほど波面の位相をそろえた光を当てられるか、つまりどれほど干渉性の高い光を当てられるかも重要です。そのためには高い空間コヒーレンスの光を高い効率で利用できる高輝度光源が必要で、空間コヒーレンスを活かすには高分解能で干渉パターンを正確に記録できるカメラが必要です。逆にカメラの空間分解能が高くても光源の空間コヒーレンスが低ければ、干渉性を活かした撮像は困難です。輝度の高い光源との組み合わせにより、はじめて干渉性を活かした高精度な構造解析が可能になります。

 

ORCA-Quest 2は空間コヒーレンスの高いX線を活かせる高空間分解能を持っているカメラですし、繰り返しになりますが、空間分解能以外の性能も高いです。わたしたちがやりたかったX線の高精細イメージングに適したカメラだと実感していますし、わたしたちが求めていた性能を持つ素晴らしいカメラだと思います。また、美しい画を撮るにはセンサの性能だけではなく画像処理技術などを使う方法もありますが、通常のカメラでは埋もれてしまうような自然界の現象をORCA-Quest 2はそのまま取れてしまう性能を持っているので、ある意味「非常にピュアなカメラ」で好印象を持っています。

ORCA-Quest 2は現在進行中の実験に使っているため画像をお見せすることができないので、代わりに同じORCAシリーズの「ORCA-Flash4.0 V3」で取得した画像をご紹介します。こちらがその画像なのですが、果実に養分を送るための管が隅々まで張り巡らされていることがわかるかと思います。種類の異なるさくらんぼをいくつか撮像したことで、実はこの管の張り巡り方は品種によって違っていることがわかってきました。

これらがわかることで、栄養を効率的に送るための品種の改良、ブランド品種の特許化におけるDNA情報の登録や構造情報の登録などができるようになると期待されています。

提供:東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 矢代 様

改善点というよりは要望に近いかもしれませんが、可能であれば分解能や感度は高い状態を維持したまま、視野を広くしてほしいです。繰り返しになりますが、視野が広くなれば撮像できる対象物が増えます。撮像できる対象が増えるということは、世の中にある謎の解明に一歩近づくことともいえます。私たちはそういった形で社会に貢献することに対して使命感を持って研究をおこなっていますので、その支援を研究機器や技術の面からサポートいただけると非常に嬉しいです。

今後の研究について

-今後の研究の展望について教えてください。

 

研究の目指すところとしては「世界最高感度のイメージングを実現し、世界一美しい画像を撮ること」です。X線を用いた高精細イメージングにはいくつか方法があり、今世界的には回析格子干渉法と伝播ベース法が主流です。いずれも世界最高感度のイメージングを目指せる方法ですが、まだまだ改善の余地があると思っています。このゴールを実現するには、究極的には位相の情報を直接撮影・記録・画像化する「X線ホログラフィ」の取得が必要だと考えているので、そこを目指して開発を進めていきたいです。技術が開発され、取得できて情報量が増え、見えなかったものが見えるようになると、データサイエンスの発展が期待できると思っています。具体的には、コンクリートや金属の強度を決める要素をみつけてもっと強度の高い材料の開発をする、植物の品種の違いを構造レベルで特定できるようにして品種改良や種の保存を行う、などが挙げられます。わたしたちはサイエンスの力で世の中にあるものを守り育てていく、そのような形でさまざまな産業の発展に貢献していきたいと思っています。御社のカメラには、これからもどの企業にも負けない性能のカメラを提供いただいて、我々の挑戦を支えていただけたらと思います。

研究者プロフィール

矢代 航
東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 教授

2000年  東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 博士(工学)
2000年  日本学術振興会 特別研究員
2001年  産業技術総合研究所 特別研究員
2004年  物質・材料研究機構 特別研究員
2004年  東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 助手(助教)
2012年  東北大学多元物質科学研究所 准教授
2020年  京都大学化学研究所 客員准教授(兼任)
2021年  現職(東北大学多元物質科学研究所 教授(兼任)、東北大学大学院工学研究科ファインメカニクス専攻 教授(兼任))
2022年  東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 特定客員教授(兼任)
2025年  東北大学大学院歯学研究科 教授(兼任)

※本ページに掲載している内容は、2025年9月の取材時点のものです。

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ORCA-Quest 2は、ORCA-Questの後継機として極めて低ノイズなスキャンモードにおける読み出し速度の高速化や紫外領域での感度向上を実現。更なる進化を遂げた新たなqCMOSカメラです。

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