ORCA®-Questを用いた超高速磁気光学イメージング【Radboud University】

2025年9月12日公開

超高速ポンプ・プローブ実験では、磁気光学効果を利用して磁化ダイナミクスを高精度に解析することができます。これにより、磁性材料の挙動を極めて短い時間スケールで観察できるようになり、基礎物理の理解を深めるとともに、新たな技術の開発にもつながっています。

極めて優れた低ノイズ性能かつ高い量子効率を実現したqCMOS®カメラ「ORCA-Quest」は、50フェムト秒の単一パルスからの微弱な信号を高感度に検出できる性能を備えており、空間分解能の高い超高速磁気変化の撮像に適しています。本記事では、Radboud University (ラドバウド大学) のUltrafast Spectroscopy of Correlated Materialsグループにおける、ORCA-Questを用いたシングルショットによる全光スイッチング実験についてご紹介します。

 

シングルショットの全光スイッチング実験

過去20年間で、レーザパルス励起は磁化ダイナミクスの研究において最も柔軟性の高い手法のひとつとして発展してきました。この分野の研究により、磁化を光で制御する新しい複雑なメカニズムが次々と明らかになっており、科学的な観点だけでなく、磁気抵抗型メモリ(MRAM)やスピン論理デバイス、レーストラックメモリなどの商業応用においても大きな注目を集めています。

全光ポンプ・プローブ実験では、磁化の変化を磁気光学効果、特に磁化に比例して光の偏光が回転する現象を通じて測定します。超短パルス光源を用いることで、サブピコ秒以下の時間分解能が得られ、瞬間的な励起後の磁化の時間的変化を詳細に解析することが可能になります。

しかし、不可逆的な全光スイッチングの過程において、50フェムト秒の単一パルスから得られる磁気光学信号は非常に微弱であり、その検出は依然として大きな課題となっています[1]。

シングルショット全光ポンプ・プローブ実験におけるORCA-Quest導入の成果

磁化ダイナミクス研究における科学計測用カメラの主な役割は、磁気光学信号を (サブ) ミクロンの空間分解能で検出することです。この用途に使用するカメラには、50フェムト秒以下の単一レーザパルスによって得られる信号を捉える必要があり、対象波長での高い量子効率と優れた低ノイズ性能が求められます。さらに、実験で観測される偏光回転角は数ミリ度と非常に小さく、単一パルスに含まれる光子数も限られているため、読み出しノイズが極めて低く、短い露光時間で撮像可能なカメラが求められます。加えて、レーザや周辺電子機器との高精度な同期、高ダイナミックレンジ、諧調の深さ、柔軟なソフトウェアとの統合性なども重要な要素です。

これまで多くの超高速磁気光学イメージングにおける研究では、CCDカメラの使用が主流でしたが、qCMOSカメラはその極めて優れた低ノイズ性能により、研究の可能性を大きく広げました。

また、レーザ誘起ダイナミクスの別の実験では光の第二高調波のイメージングをしており、数分の露光時間が必要です。ORCA-Questは 高い量子効率、高画素数、デジタルビニングにより、高品質な画像取得を可能にしています。

Example of optically switched magnetic areas 1

Example of optically switched magnetic areas 2

光によって磁化が切り替わった領域の例:明るい色と暗い色は、磁化の面外成分がそれぞれ反対方向を向いていることを示しています。両方の画像において、レーザ照射された領域の中心部は完全に消磁されており、複数の磁区が混在するパターンを形成しています。外縁部では磁化の切り替えが起こっており、2回目のレーザパルスによって再び反転させることも可能です。レーザパルスが重なった領域では、明暗が交互に現れることで、その様子を視覚的に確認できます。

スキャンモード:Ultraquietスキャンモード | 読み出しモード:エリア | ビニング:4×4 | トリガ:グローバルリセット

露光時間:(左)33.94 μs = 単一の100 fsプローブパルス、(右)100 ms = 100回のプローブパルス

今後の研究展望

ORCA-Questは、超高速レーザパルスからの微弱な磁気光学信号を安定して検出することで、シングルショットによる磁化イメージングを大きく向上させます。その性能は、単一パルスによるスイッチング研究だけでなく、長時間露光による撮像にも対応しています。今後は、このアプローチを純粋な磁化を持たない反強磁性体材料へと応用していく予定です。この種の材料における磁区の可視化は非常に困難であり、線形および非線形の高度な光学技術が必要とされます。[2, 3]

これにより、磁化制御の理解がさらに深まり、MRAMやスピントロニクスデバイスなど、さまざまな応用分野への展開が期待されます。

研究者プロフィール

Nikolai Khokhlov氏

ラドバウド大学  Ultrafast Spectroscopy of Correlated Materialsグループ所属 博士研究員

モスクワ大学 (M.V.ロモノーソフ・モスクワ国立大学) にて物理学の博士号を取得後、モスクワのロシア量子センターで博士研究員としての研修を実施。その後、サンクトペテルブルクのヨッフェ物理学技術研究所にて助教授として勤務し、現在のラドバウド大学に着任。

Paul van Kuppevelt氏

ラドバウド大学  Ultrafast Spectroscopy of Correlated Materialsグループ所属 博士課程在籍

研究開始前は、アイントホーフェン工科大学 で物理学を学び、学士号および修士号を取得。学士論文では金ナノ粒子におけるプラズモン共鳴のモデルと実験の比較を行い、修士論文では円偏光パルスを用いた磁性多層ナノ膜における論理演算の実験に取り組むなど、光と物質の相互作用に焦点を当てた研究に従事。現在は、磁気コンピューティングやデータストレージなどの応用につながる可能性を秘めた、フェリ磁性体および反強磁性体の磁化状態を制御・操作する手法を探求。

Wiebe Leenders氏

ラドバウド大学  Ultrafast Spectroscopy of Correlated Materialsグループ所属 修士課程学生

ラドバウド大学のUltrafast Spectroscopy of Correlated Materialsグループにて、物理学の修士課程における研究インターンに取り組む。これまで材料科学や太陽光発電の分野で研究経験を積み、現在は光励起による超高速スピンダイナミクスの研究に着目。インターン終了後は、磁性材料のさらなる探究を進め、ニューロモルフィック計算の新たなパラダイムへの応用可能性を模索していく予定。

※ 本ページに掲載している内容は取材時点のものです。

参照

[1] Hashimoto, Yusuke, et al. "Ultrafast time-resolved magneto-optical imaging of all-optical switching in GdFeCo with femtosecond time-resolution and a μm spatial-resolution." Review of Scientific Instruments 85, 6 (2014).

 

[2] Hayashida, T., et al. "Observation of antiferromagnetic domains in Cr2O3 using nonreciprocal optical effects." Physical Review Research 4(4), 043063 (2022).

 

[3] Fiebig, Manfred, et al. "Second harmonic generation and magnetic-dipole-electric-dipole interference in antiferromagnetic Cr2O3." Physical Review Letters 73(15), 2127 (1994)

関連製品

ORCA-Quest 2は、ORCA-Questの後継機として極めて低ノイズなスキャンモードにおける読み出し速度の高速化や紫外領域での感度向上を実現。更なる進化を遂げた新たなqCMOSカメラです。

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