レシオイメージング レシオイメージング

2波長同時レシオイメージング

3.高速な生命現象をレシオイメージングで確実に捉える計測方法

膜電位は、さまざまな細胞の機能評価において計測される重要なパラメータの1つですが、ミリ秒単位で変化する非常に高速な生命現象であることも知られています。従来レシオイメージングで広く用いられてきたフィルタホイール方式では、捉えることが出来ない速さです。
ここからは、なぜフィルタホイール方式では捉えることができないのか、そして高速な生命現象を確実に捉えることができる計測方式について説明します。

3-1.フィルタホイール方式の限界

フィルタホイール方式は以下の図のように、フィルタホイールを回転させ2つの波長を交互に切り替えながらイメージングする手法です。

フィルターホイール方式-原理図

図11:フィルタホイール方式の計測模式図

この手法でイメージングした場合の、フィルタの切り替えのタイミングと撮像のタイミングを模式的に表したのが以下の図です。

フィルターホイール方式-撮像タイミング

図12:フィルタホイール形式の撮像タイミング

図12に示される様に、フィルタの切り替えには通常200 ms程度の時間を要します。膜電位変化の様な高速な生命現象はフィルタ切り替えの間にも進行してしまうため、フィルタホイール方式を用いて観察時に起こりうる生命現象を正確に計測することはできません。このように高速な生命現象を捉えるには、2つの波長を同時に計測する必要があります。

3-2.2波長同時計測方式で高速な生命現象を捉える

2波長同時計測は、1台のカメラに2つの波長を同時に結像することができるイメージスプリッティング光学系を用いることで可能になります。

 

イメージスプリッティング光学系は、以下の図のように顕微鏡とカメラの間に設置して用いる光学系です。

2波長同時計測方式-原理図

図13:2波長同時計測方式の仕組み

フィルタホイール方式と2波長同時計測方式の撮像のタイミングの違いを模式的に表したのが以下の図です。

計測方式比較-撮像タイミング

図14:フィルタホイール方式と2波長同時計測方式の撮像タイミング比較

上の図からわかるように、2波長同時計測方式では膜電位変化のように高速な生命現象を、取りこぼすことなく計測することができます。以下は膜電位変化をフィルタホイール方式と2波長同時計測方式の両方で撮像し、比較した動画です。

動画3:2波長同時計測方式とフィルタホイール方式の時間分解能比較

動画3において、右側のフィルタホイール形式では拍動や膜電位変化が捉えられていない事がお分かり頂けると思います。一方左側の2波長同時計測では、膜電位変化のように高速な生命現象を、より正確に計測できていることが見て取れます。

3-3.高速計測が活かされる実計測例

ここまで見てきた心筋膜電位の時間的変動は、イオンチャネルの種類や状態を反映し、創薬の心毒性評価としても重要な指標であることが知られています。従来では画像として形状や位置の情報を保ちながら高速な膜電位変化を計測することは困難でした。しかし2波長同時レシオイメージングを行うことでそれらの情報を持つ高速・高精度なイメージングが可能になりました。

膜電位変化の20-80% rise time

図15:膜電位変化の20 %~80 % rise time

図15に示したグラフは2波長同時計測方式で計測した動画1における心筋細胞の膜電位変化を特定領域についてグラフ化したものです。この領域における膜電位変化の20 %~80 % rise time が20 msec弱であることが分かります。
これより例えば着目する領域を形状や動きから任意に指定し、膜電位時間変動に対する薬理評価を行うことが可能になります。

 

2波長同時計測と視野の関係

広い視野でのイメージングは、より多くの細胞を同時に計測できるため、効率的な研究を行う上で大きなメリットとなります。また、従来の視野では計測困難だった生命現象の時空間的な広がりを計測できるようになるため、生命現象の新たな知見・発見を得る可能性を高められます。
これまで、有効視野を半分にせざるを得ないイメージスプリッティング光学系を用いた2波長同時計測方式は、イメージングに用いるカメラの有効視野の狭さから、その有用性にも関わらず、現実的な手法としては不向きなものとなっていました。

 

しかし近年、従来のCCDカメラに比べ、数倍の視野を持つ科学計測用CMOSカメラの登場により、2波長同時計測方式が有用で現実的な手法となりました。

視野比較

図16:視野比較

4.まとめ

これまで見てきた様に蛍光ライブイメージングにおいて、蛍光輝度は様々な要因で変化し、単純な輝度値を指標に計測すると誤った解釈をしてしまう可能性があります。レシオイメージングを行うことで、試料や蛍光プローブ環境による輝度の変動成分を取り除き、目的とした現象の観察をより正確に行うことが出来ます。また高速な生命現象を捉えるためには、時間ロスの無い2波長同時計測方式が優れています。この手法を用いれば、拍動し常に動いている心筋細胞から高速に変化する膜電位を画像として捉えられることを示しました。

 

この様な信頼性の高いイメージングデータを得ることが、生命現象を記述する論拠の基になり査読通過にも寄与すると考えられます。
高速な生命現象をより正確に捉える2波長同時レシオイメージングは、1波長計測より信頼性が高い計測手法として、今後さらに広い研究分野で駆使されていくと考えられます。

本ページで使用しているサンプル・撮像条件

サンプル

Human-induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocytes (hiPS-CMs)、Axiogenesis AG

光学系 Ti-E顕微鏡、NIKON Corp.+ (電動吸収フィルタホイール TI-FLBW-E、NIKON Corp. / イメージスプリッティング光学系 W-VIEW GEMINI、Hamamatsu Photonics K.K.)
レンズ 100× (oil)、NIKON Corp.
フィルタセット [顕微鏡] EX:ZET488/10×、Di:ZT488rdc、Em:ET500lp、いずれもChroma Technology Corp.
[フィルタホイール TI-FLBW-E] Em1:542/27 nm、Em2:630/92 nm、いずれもSemrock, Inc.
[W-VIEW GEMINI] Di:560FDi、Em1:542/27 nm、Em2:630/92 nm、いずれもSemrock, Inc.
カメラ ORCA-Flash4.0 V2、 Hamamatsu Photonics K.K.
露光時間 10 ms
ビニング 1×1
培地 Assay Medium、ReproCELL Inc.
温度 37 ℃
蛍光プローブ di-4-ANEPPS、Thermo Fisher Scientific K.K.

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