レシオイメージング レシオイメージング

2波長同時レシオイメージング

1.レシオイメージングの概要

1-1. 蛍光計測において蛍光輝度に影響を与える要因

蛍光プローブを用いたライブイメージングは、生命現象を生きた組織からリアルタイムに観察できる優れた手法です。イオン濃度や膜電位、pHの変化に応じて蛍光量が変化するプローブを用いることで、単に構造を知るだけではなく、生体機能の時空間的な変化を知ることが可能です。一方で単純に計測した蛍光輝度の変化を、そのまま目的の現象や標的分子の動態と捉えると誤った計測になりかねません。蛍光プローブから検出される蛍光輝度は、蛍光プローブの退色、局在濃度のばらつき、試料の移動等様々な要因で変化するためです。これらは計測技術上の原因で起きる不自然な計測値、すなわちアーティファクトになります。

 

カルシウム濃度に応じて蛍光輝度が変化する1波長の蛍光プローブを用いて細胞内カルシウム濃度変化を計測した場合を例に、試料・蛍光プローブ環境が蛍光輝度に与える影響について模式的に説明します。

1波長-細胞内カルシウム濃度が同一の場合

図1:1波長 - 3つの細胞の細胞内カルシウム濃度が同一の場合(細胞A、細胞B、細胞C)

図1において、細胞A、細胞B、細胞Cがあり、静止時のカルシウム濃度は同一と仮定します。 また、細胞Bは細胞Aに比べて厚みがあり、細胞Cは細胞Aに比べて色素の取り込み量が少なかったとします。 それぞれの細胞を同じ条件で励起して得られる蛍光輝度は、細胞Aを100 %とした場合、細胞Bは蛍光色素の量が厚み分多いため、蛍光輝度が相対的に130 %となります。 一方で細胞Cは蛍光色素が少ないため、蛍光輝度が相対的に70 %となります。
蛍光輝度はプローブの存在量にも依存するため、単純な蛍光輝度を指標にした場合、細胞内カルシウム濃度が同一であるにも関わらず、細胞Bの細胞内カルシウム濃度が高く、細胞Cの細胞内カルシウム濃度が低く見えてしまいます。

 

次に図2において、細胞Aのみ刺激が加わり細胞Aの細胞内カルシウム濃度が上昇し、蛍光輝度が細胞Aの刺激前に比べて30 %上昇する場合を例に説明します。

1波長-細胞Aの細胞内カルシウム濃度が高い場合

図2:1波長 - 細胞Aの細胞内カルシウム濃度が高い場合

図2の状態においては、細胞内カルシウム濃度が細胞Aと細胞Bで異なっているにも関わらず、細胞Aと細胞Bの蛍光輝度が同じ値になるため、2つの細胞内カルシウム濃度の差を判別することができません。
この様に蛍光ライブイメージングにおいて、計測される蛍光輝度値は試料・蛍光プローブ環境の影響を受け、計測値が何を意味するのか様々な解釈を考える必要があります。

1-2.レシオイメージングの原理とメリット

1-2-1.レシオイメージングの原理

レシオイメージングは試料・蛍光プローブ環境の差や変化に伴う本来の計測対象とは関係のない蛍光輝度成分を補正し、より正確で定量的なイメージングをするために広く用いられる手法です。
一般的にレシオ用の蛍光プローブは、1つのプローブ分子が2種類の蛍光を発します。 レシオイメージングとはこの2つの蛍光輝度の比(レシオ値)を画像として得る計測手法です。これが計測上どのようなメリットを持つのでしょうか。

レシオイメージング-原理

図3:レシオイメージングの原理

図3ではレシオ用蛍光プローブを使って得られる典型的な蛍光輝度の経時変化を模式的に示してあります。試料の移動や退色による蛍光輝度の変動はレシオ用蛍光プローブでも発生します。この場合2つの蛍光輝度は同じ上下方向の変動を示します。分母と分子の輝度値の増減が揃うため、2つの蛍光輝度のレシオ値を見ると、値は一定に保たれます。 一方でレシオ用蛍光プローブは目的の現象に関して2種類の蛍光は輝度の変化が鏡像関係になるように設計されています。例えば、カルシウム濃度を計測するための蛍光プローブでは、一方の蛍光はカルシウム濃度が上昇すると増え、もう一方の蛍光はカルシウム濃度が増えると逆に減ります。このため、レシオ値に大きな変化が見られます。
この様に蛍光輝度経時変化のレシオ値を比べると、単純な試料の移動や退色による輝度変化成分を打ち消し、目的としている現象による輝度変化を抜き出すことが出来ます。

1-2-2.様々な試料条件における蛍光輝度と、レシオ値から分かること

レシオイメージングを用いると、経時的な変動を追うだけでなく、細胞間の比較も容易にします。細胞内カルシウム濃度を2波長の蛍光プローブを用いて計測した場合を例に、様々な計測条件においてレシオ値が有用な情報をもたらすことを模式的に説明します。

2波長-細胞内カルシウム濃度が同一の場合

図4:2波長 - 3つの細胞の細胞内カルシウム濃度が同一の場合(細胞A、細胞B、細胞C)

図4において、図1と同じ様に細胞A、細胞B、細胞Cがあり、静止時のカルシウム濃度は同一と仮定します。細胞Bは細胞Aに比べて厚みがあり、細胞Cは細胞Aに比べて色素の取り込み量が少なく、蛍光輝度は細胞Aが100 %、細胞Bが130 %、細胞Cが70 %とします。2つの蛍光波長からの輝度値を波長別にCh1、Ch2とします。カルシウム濃度が一定の場合、輝度値はCh1、Ch2共に色素の存在量に依存します。このため細胞BはCh1の輝度が高くCh2の輝度も高い、細胞CではCh1の輝度も低く、Ch2の輝度も低くなり、そしてそれらの比(レシオ値)は細胞A、B、Cで同一です。このため、1波長計測で起きてしまったような、細胞が厚い状態をカルシウム濃度が高いと誤解する事はなく、また色素の取り込み量が少ない細胞、あるいは退色している細胞でカルシウム濃度が低いと誤解する事もありません。レシオ値で比較をする事でこれらの細胞のカルシウム濃度が同一であることが分かります。

 

次に図5において、細胞Aのみ刺激が加わり、細胞Aの細胞内カルシウム濃度が上昇し、Ch1蛍光輝度が細胞Aの刺激前に比べ30 %上昇する場合を例に説明します。

2波長-細胞Aの細胞内カルシウム濃度が高い場合

図5:2波長 - 細胞Aの細胞内カルシウム濃度が高い場合

レシオ用蛍光プローブの性質のため、カルシウム濃度が上昇した場合にCh2の蛍光輝度は逆に減少し70 %となります。
Ch1のみで比較すると細胞AとBは同じ輝度値を持っています。しかしレシオ値を算出すると、細胞Aは1.86、細胞Bは1と値が異なり、細胞Bに比べて細胞Aの細胞内カルシウム濃度が高いことを判別できます。

 

これまで見てきた様に蛍光ライブイメージングにおいて、蛍光輝度は様々な要因で変化し、単純な輝度から有益な情報を得るには限界があります。レシオイメージングを行うことで、試料や蛍光プローブ環境による輝度の変動成分を取り除き、目的とした現象の観察をより正確に行うことが出来ます。

レシオイメージングに用いる蛍光プローブ

一般的にレシオ用蛍光プローブは、1つのプローブが2つの異なる波長の蛍光を発します。
レシオ用蛍光プローブの例としては以下のものがあります。また近年盛んに開発されている蛍光タンパク質を用いるFRETプローブもレシオイメージングを行うことを前提に設計されています。

2波長-プローブの種類

図6:2波長 - プローブの種類

(左)膜電位感受性蛍光プローブ di-4-ANEPPS、(中)カルシウム感受性蛍光プローブ Indo-1、(右)カルシウム感受性蛍光プローブタンパク質 YC3.60

ここまでは、蛍光ライブイメージングにおいて蛍光輝度に影響を与える要因と、レシオイメージングのメリットについて、模式的に示してきました。次のページでは、生命現象をレシオイメージングでとらえる方法について、実測データから説明します。

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